東京国際映画祭ろうの俳優が出演する「スヴェタ」


東京国際映画祭で、ろうの男女俳優が演じる「スヴェタ」を観てきました。
上映後にロシアの監督と夫婦役を演じたラウラ・コロリョヴァさん、ロマン・リスツォフさんのトークショーに、手話通訳がつくとのこと、これはいかねば!と。


会場のあらゆるところに、筆談や手話で対応できるスタッフがおりました。
案内の貼り紙も分かりやすく、隅々まで配慮を感じます。



映画は全編を通して手話での会話なので、英語字幕と日本語字幕付き。
おそらく手話で激しく夫婦喧嘩している様子も
ほとんど音声はなかったのでは。
生きるために手段を選ばないスヴェタ、そこまでしちゃうの?!
と戦慄を覚えつつも、最後に孤児に対して


「生きるために強くなりなさい。
 何があっても絶対諦めないこと。」


と強く諭す一言には涙。
観客に共感を求めず淡々と進む世界観、みんなで感想を語り合いたくなる作品でした。
さて、くだんの手話通訳付きトークショーについて。


上映後、主催者側が「手話通訳が見やすい席へどうぞ!」と
パネルを掲げて案内してくれたので
前の席に移動することができました。



すぐ目の前に美美男美女のお二人と、監督、司会者、そして中央に手話通訳の森本行雄さん。
日本語、ロシア語、英語、日本の手話とリレー通訳。


日本の聴覚障害者たちは手話通訳を見るのですが、
ろう俳優二人に対しては、
監督が時々筆談で伝えるのみ。
「伝わらない」ことに敏感な私たちは、
その場にいた数名が機転を利かせて
「日本の手話を読み取って国際手話で通訳」をするという状況に。


そこで、質疑応答のときに
映画が素晴らしかったという感想に加えて、
「今の状況」についての要望を尋ねてみました。


まず監督からは
「事務局側はぎりぎりまで出来る限りの対応をしてくれた」という感謝の言葉。


次に主役のおふたりからは
「国際映画祭だから国際手話があると良かった」という率直な一言がありました。


更にそれを受けた司会であり映画祭ディレクターの矢田部さんは
「今回は初めての試みであり、日本の手話通訳をつけることができたが
 国際手話も必要だったと思う。今後の課題とし次につなげたい。」


と真摯に応えてくださったことにとても感銘を受けました。
「次につなげる」これが大事です。
初めから完璧にできたら理想的ですが
仕事とは多様な人々の関係性の中で進められるものです。


そもそも、今回のきっかけは
手話通訳士森本行雄さんの知人でヨコハマフットボール映画祭の福島成人さんから
「ろう者が出演する作品が上映され、トークショーもあるので
手話通訳をつけたいがどうすれば良いか?」という相談があったこと。
このことを知った聴覚障害当事者からも「情報保障をつけてほしい」と要望があったことです。


福島さんの「気付きの感性」も素晴らしいですし
要望を出した当事者の働きかけも素晴らしい。


そこから国際映画祭事務局と廣川麻子さんが理事長をつとめる「TA-net」と
何度となく打ち合わせの場を持ったプロセスを聞きました。
準備期間が短い中で、他にも沢山の作品の対応もある中
矢田部さんをはじめとする事務局の皆さんの真摯な対応を思うと頭が下がります。
それは、映画祭会場の至る所で文字情報や手話での対応に満ちていたことからも
良く伝わってきました。


やってみて初めてわかること、
それを次につなげて
より良いものにしていくスパイラルアップ。
前向きで建設的な終わり方は、来年への楽しみを大きくしてくれます。