奇跡のような一冊「私の脳で起こったこと」
レビー小体型認知症からの復活。
幻視や幻聴といった、自分にしか見えない、聴こえない、
でも、たしかに身体の中で起こっていること、脳の中で起こっていること、
これをありありと描写しているのです。
そこから生じる恐怖や苦しみや絶望までも。
淡々とした言葉で、だからなおリアルに迫ってくるのでしょう。
「認知症」という言葉のイメージが大きく覆されました。
また、中途失聴である私が感じたことと
著者である樋口直美さんが感じたことと重なるところがあり、
まるで思いを分かち合ってきたかのような錯覚さえ覚えました。
たとえば病気が進行していく恐怖を
「自分のアイデンティティーを失っていくのが怖いのではなく
家族を苦しめることが一番怖い」
と語っている所…。
私も、両親や家族を悲しませるのが何よりも辛かったのです。
また
「家族から見れば普通に生活しているように見えるだろうが、
自分ではまるで身体も心も脳も砂でできていて、
サラサラサラサラ絶え間なく、こぼれ続けていく感覚」
と表現している所…。
私も、音が遠ざかっていく様子を
砂浜の砂をすくってもすくっても
指の間からさらさらと零れ落ちるように、消えていったと表現していたからです。
この本と出会ったきっかけは、ツイッターで当事者研究に関して
以下の投稿をしたことでした。
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私は耳鳴りをコントロールする。
聴力の低下と共に始まった耳鳴り、
当初は耳に鉛筆を突き刺したいほどの苦痛だったが、
現在は親しみを込めて「ミミナリさん」と呼ぶ。
以来約30年、365日ほぼ24時間音がしており完全共存。
https://dropbox.com/s/06z9jai65700b00/…
これを見てくださった樋口さんが
「こんな素晴らしい資料が無料公開されているなんて…!!」
とリツイートしてくださったのです。
とてもうれしくて、すぐに樋口さんと何度かやり取りをさせていただき
この本を入手したのでした。
個人的には各章の初めに引用されている9編の詩があることで
体験談というより、樋口さんの生きる姿勢や生き様が伝わってくるのが好きです。