やめられない衝撃!今村彩子監督の「友達やめた。」

今村彩子監督の新作映画「友達やめた。」

アスペルガー症候群のまあちゃんと
耳の聞こえない映画監督彩ちゃんのドキュメンタリー映画

 

まあちゃんのちょっとした言動が気になるたび
“アスペだから仕方ない“と思っていた彩ちゃんが

「でも、そう思うたび、自分は傷ついていた。なぜなら……」

と台詞のあとの映像に、息をのむほどの衝撃を受ける。
しばらくその後の映像が頭に入ってこなかったほど。

 

思えばこの映画は彼女から連絡をもらってから衝撃を受けっぱなしだ。
まずは、ようやく完成したという映画のタイトルだ。
数年前、彩ちゃんから「ちょっと変わったお友達」の話を楽しく聞いていたのに
友達やめた。って……えぇ!!??と。

 

そしてこのキャッチコピーにも思いきり衝撃を受ける。

 

「あなたの常識は、わたしの非常識。
わたしの普通に、あなたはドン引き。」

 

さらに映画が始まり
「こんなにすごい出会いがあるなんて!!」と
純粋にこのことに衝撃を受ける。

何しろ「ちょっと変わったお友達」とはアスペルガー症候群のまあちゃん。

困る、怒る、嬉しい、悲しい、いろんな感情が温かな泉のように湧き出てくる人だ。

一方監督の彩ちゃんは、耳が聞こえない。
ふたりの共通するコミュニケーションは「手話」。

もう一つ共通しているのはふたりとも、心の中のもやもやや

自分の「イマココ」の思いをきちんと「ことば」で表現できるということ。

 

「〇〇だから今いやな気持ちになってるんだよ。どうしたらいい?」といったふうに。

 

しかしだからといって対話がうまく進まないのが、ふたりのオモシロいところ。

面白いと言ったら語弊があるが、
ふたりのやりとりはなかなかにややこしいのだ。

手話という共通言語があっても。

 

「人と人なんて分かり合えない」というまあちゃん。
分かり合えなさをそのままにせず
かといって完全に分かり合えることを目標ともせず
アスペのまあちゃんのトリセツや
お互いの困りごとを一緒に眺め、
それはどんなときに起こるのか
何がそうさせるのか「ふたりの新常識」を編み出していく過程は
当事者研究の対話そのものだと感じた。

 

まあちゃんの表情や視線の変化から、人間としての揺らぎが心に響く。

こうした表情のとらえ方は、今村彩子監督の繊細な感性だからこそ。

時折アニメーションの画面となることで
観客は、ふたりの感情の起伏を客観的にとらえることができる。
さらに「自分だったらどうするだろうか」と
一緒に考えてしまう自分がいた。

こんなに問いかける映画はなかなかない。

 

そうして帰りの電車でパンフレットを読み、

「えええ!!!!」と心の中で思わず叫ぶ。

まあちゃんの本音に最後の大きな衝撃を受け、電車の乗換を間違えてしまった。

(これ、載せる??載せちゃうの?)
心の中が忙しい。

 

「分かり合う」とは到達するものではなく
変化し続けるプロセスそのものであり、ふたりもまだその中にいるんだと知る。
映画は完成したけれども。

 

鑑賞後にパンフレットを読むことで、これだから今村彩子やめられない!と
たまらなくなってしまう「友達やめた。」

今村彩子監督の胆力、ここにあり。

 

『友達やめた。』9月19日から公開

http://studioaya-movie.com/tomoyame/

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中央が今村彩子監督。友人の廣川麻子さんと。