耳をかたむける

装丁に惹かれて一気読みした一冊。
「52ヘルツのクジラたち」

f:id:karinmatasumori:20210426173544j:plain他のクジラが聞き取れない高周波数で鳴くため
自分の意思や存在を誰にも伝えることができない
世界一孤独なクジラ。


「わたしを殺したかったのはわたし」と
今にも消えそうな火を守るように生きる主人公と
母親からの虐待で声を出せなくなった少年との出会い。
弱者やマイノリティといわれる
多様な登場人物からの
叫び、呻き、嘆き、悲しみ、怒りなど様々な声なき声――52ヘルツの声は
身近なだれかかもしれなくて、
自分でもあることに気付かせてくれます。
 
でも、どんなに暗い海の中でも
一筋の光となる他者との出会いが、
希望と再生につながること。
決してファンタジーだけで終わることなく、
児童虐待、ネグレスト、親子関係、きょうだい間の差別、
恋人からのDV、
トランスジェンダー、ヤングケアラーなど
あらゆる現代社会の問題が浮き彫りとなり
自分ならどうするだろうか、
どんな方法が現実的なのか読者も一緒に考えていける。

他者の声なき声を受けとめられる優しい人が苦悩する社会ではなく
声なき声に耳をかたむけすくえる社会になるといい。
沈黙に一人耐える孤独の声や
言語化できない思いや
声にならない泣き声は無数にある。

だれかに頼ること、声をあげることをあきらめていたり
「助けて」といえなくなった人や、
コロナ禍での孤独を温かく包み込んでくれる一冊。
 
大分県の海岸沿いの街や福岡県小倉の街並みや
郷土料理など風景描写もとても素敵。
 
52ヘルツの声って、どんな音なのだろうか

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これは昨年作成した切り絵のクジラ