熊川哲也「カルメン」圧倒的な非言語の三時間

熊川哲也Kバレエカンパニー「カルメン」、
非言語の物語に没頭する3時間。

身体の中心から上下左右に伸びる手足が美しい弧を描き、
滑らかに、情熱的に魅惑的に、
空中を軽々と舞う動きから目が離せない。

衣装や奥行きのある舞台装置の美しさ、
豊かな表情と大きな仕草で
まるで台詞が聞こえてくるかのような飽きない非言語空間。

バレエは台詞がなく
踊り・音楽・衣装・美術・照明、
舞台装置全てを含めた言葉のない総合芸術だからこそ、
聴覚障害者でも楽しみやすい!と
バレエの概念が覆されました。

自由奔放で情熱の赴くままに生きる魔性の女カルメン
翻弄され愛の狂気へと落ちてゆく男ドン・ホセの
リアルな愛憎劇が
言葉を持たないバレエとなって
身体の動きが台詞となり、歌となって感情と物語の展開を伝えるのです。
激しい動きですらも音楽的で美しい。

カルメンと愛を交わす歓喜の表情から一変して
冷ややかなほど冷徹な眼差しになるカルメン
ホセの嫉妬心や悲しみが、怒りへと変わる瞬間の豹変。

そして、空気を揺るがすほどのピストルの音。
聞こえない私にとって一番印象的な場面でした。
オペラグラスを片手に、しばらく息がつけなかったほど…。

時に観客から拍手がわき起こり、笑いがもれたり
目の前で繰り広げられる非言語の舞台と、観客との対話もあり。

前から4列目の席は
舞台下の生のオーケストラも見ることができ
指揮者の井田勝大さんの動きもよく見えます。

闘牛場での雄々しい曲を奏でる振り上げるような指揮の動き
官能的な場面の蠱惑的で柔らかな指揮の動き
静寂の空気をおさえるようなひそやかな指揮の動き
井田さんの身体全部での指揮の動きと、
舞台上の動きが一体化するそれは究極の「音楽の視覚化」。
非言語だからこそ、言語以上に伝わってくる「物語の視覚化」。

終演後にロビーで指揮者の井田勝大さんにお引き合わせいただき
感想も伝えることができました。

 

熊川哲也Kバレエカンパニー「カルメン
東京Bunkamuraオーチャードホールにて6月5日まで開催。
ぜひ行ってみてください。オペラグラス必携です!
https://www.tbs.co.jp/kumakawa/performance/202206.html
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2022carmen