ムズコミュ(難しいコミュニケーション)1

難しいコミュニケーションの場面。

それは車の中。

私は運転はしないので、専ら助手席か後ろの席だが運転者と二人のときはまだいい。
困るのは数名いて、手話ができない人もいるとき。
運転者と他の人たちで会話が飛び交っていても、聞こえない私には「会話中」だと判断できない。だから、こちらから話しかけるタイミングが難しいのだ。

例えば私から話しかけたいとき、まずは隣にいる人の表情をチラッと見て他の人と話中かどうか見てみる。
誰とも話をしていないようなので私から話しかけたら、前の席の人の話を聞いている最中だったとか、後の席の人の話を聞いている最中だったとか、そんなことがたまにある。
それで、今度は車の中にいる人全員の顔をさりげなく見て、会話中かどうか探ったりもする。だが、基本的に全員が前を向いている車中では難しく、なかなか話しをするタイミングがつかめない。
聞こえる人同士って、前を向いたまま、下を向いたままの状態でも会話できるんだよね、これって改めてすごい。
聞こえない人同志だと、顔を合わせるのが基本。
なので、そこまでして話をしなくてもいいか!と、大抵は窓の外を見たりしてやり過ごす。ポンポンと肩を叩かれて、話しかけられたらそのときが話すタイミング。
それくらいに思っている。


これが、聞こえない人同志や手話ができる人同士だと、車の前と後ろでも平気で手話での会話が飛び交う。運転者だって、バックミラー越しに手話会話。
運転しながら、片手手話も慣れた手つきだ。

聴覚障害者でも、運転免許は取れる。
私の周囲では多くの友人が車を運転しているし、聞こえないから危険だということはほとんどなく、むしろ聞こえないがゆえに観察力が鋭く、視野も広く、聞こえる人よりもずっと安全運転、事故も少ないという。

さて、車中でのコミュニケーションは手話が出来る相手でないとなかなか難しいのだが、運転しながらの筆談がうまい人と初めて出会った。
先日地方で講演があったとき、担当の方が駅まで車で迎えに来てくださった。
聞こえない私とのコミュニケーションを想定してか、メモ帳とサインペンを持っている。しかし、大抵は車に乗ると信号で停まったときのみの筆談か、私から一方的に話しかけて、「うん」か「ううん」で答えてもらう会話だ。


ところがその方、車に乗り込むやいなや、両手でハンドルを操りながら、ハンドルの中央にメモ帳を置いて運転をしながら筆談を始めたのだ。
「あちらに見えるのが南アルプス
「後方に富士山が…」
と、完璧なガイド!
果ては、
「今日の流れは、60分が講演、その後、壇上の机の配置を変えて対談に…」と、しっかり事前打ち合わせまでできた。
運転しながらの筆談で。


それは初めて見るハンドルとペンの見事な両刀使いだった!