合理的配慮の事例

講演をする前には、参加者の年齢層、男女比、障害の有無等可能な限り事前にヒアリングをする。
参加者の状態に応じて内容を考えたり
手話が分からない人がいれば、話す内容をテキスト化し
視覚障害者がいれば、動画に音声を入れるなど事前に準備できるから。


その日の講演は、うっかりヒアリングをしそびれた。
前後の予定がぎっしりで余裕がなかったためだ。
講演が始まり、私はそのことをとても後悔した。
最前列に、盲ろうと思われる方が座っていたからだ。
彼女は要約筆記の文字を、手元のパソコンで顔を近づけて見ている。


事前に分かっていたら、パワーポイントのデータを拡大したものを準備できたのに…
と、気にかけつつ、ゆっくり話すくらいしかできずにいた。
しばらくすると、これまた最前列に座っていた方がそっと席を離れ盲ろうの女性に近づく。
友人である宮城教育大学の松崎丈先生が、どうやら気付いてくれたらしいのだ。
ちょっと早いが休憩の指示をだし、私も彼女と松崎先生のところへ行く。


要約筆記のPC画面は顔を近づけることでやっと見えるが
パワーポイントの画面は見えないとのこと。
私は「パワーポイントの原稿を印刷したものを持っていること」と「データが入ったパソコンもあること」を伝える。
すると松崎先生は、即座に盲ろうの彼女に対し説明をする。


「二つの方法があります。
一つ目は、パワーポイントの原稿があるので、これからコンビニで拡大コピーをしてお渡しする方法。
二つ目は、パワーポイントのデータが入ったパソコンがあるので、それを手元に置いて見てもらう方法。
どちらが良いですか?」と。
即座に選択肢を用意する説明の仕方が素敵。


パソコンで見たいと希望する彼女に対し、すぐに準備。
机に置いたパソコンに顔を近づけると、背中をかがめる体勢になってしまうため
近くにあった段ボール箱で即席の台を作って、無理のない姿勢で見られるように調整。
これらを休憩時間でさっと対応した松崎先生、さすが。
教育者の鑑でもあるが、人として「あるべき姿」を常に体現されている。


このように負担のない範囲で個別に対応することを「合理的配慮」という。
基本的には、本人から申し出があることが前提であるが
申し出がなくても、困っていそうな場合は
「何かできることはある?」と声をかける必要がある。
これを「建設的対話」という。


障害者差別解消法が施行されてい一年とちょっと。
まだまだ合理的配慮がどんなものかわからないという声も聞くが
今回の件は、分かりやすい事例として挙げたい。
本人からの配慮の申し出を待つだけでなく、
私たちひとりひとりが気付きの感性を高めることも重要なのだ。
そしてそれを行動にうつせる柔軟性も大事。
そうやって、周りを思いやることができる人が増えていけば
きっと社会はもっとあたたかくなる。