聞こえない私にとっての補聴器とは

私は補聴器をつけても人の声と犬の声の区別ができないし
言葉を聞きとることもできない。
車の音なのか風の音なのかの判別もできないし
女性か男性かも分からない。

「じゃあなぜ補聴器をつかうの?」
そんな質問をよくうけます。

多くの人は、補聴器の役割とは
聞こえにくい音を大きくして聞こえやすくするためにあると思うのでしょう。
でも私にとってその役割は果たしておらず
ただ「音を感じる」程度です。

「音を感じる」と私は周囲を見て音の正体を確認します。
音の正体がわかると色んな面白いことにつながります。

たとえば
・目の前の人間から発せられていると分かる→「その人の声」だと認識
・車や自転車などが近づいている→危険を察知し安全を確保
・くしゃみをしている人がいた→くしゃみってこんなに大きいの?と驚き(動悸)
・水の音や犬の鳴き声や音楽だと分かる→音の記憶と結びつく
・家の中に私ひとり、窓は締め切っているのに…→一体どちら様?(動悸)

などなど、さまざまな認識につながりますが
逆に正体不明のままのこともあります。
音のある世界は謎に満ちています。


つまり、私にとっての補聴器とは一言でいうと
「音のない世界と音のある世界をつなぐスイッチ」のようなもの。


自分の周りに音があるということが感じられると、空間が立体的に感じられます。
逆にうるさいと感じるとき、
たとえば電車の中、駅や居酒屋、雑踏の中などでは補聴器をオフにすれば
一瞬で静かな世界です。

ひとり静かな世界で、読書に集中できるし、うるさくて眠れないということもなく。
お正月やお盆に家族親戚大勢飲んだくれて雑魚寝し
「酔っ払いのいびきがうるさくて眠れない」状態でもなんのその。

そんな私の補聴器はかれこれ10年目、
補聴器の寿命は5年くらいなのに、二倍近く生き永らえた補聴器
音が全く聞こえなくなることも増えてきていよいよかと新調を決めました。

補聴器の相談はいつも手話ができる認定補聴器技能者がいるお店でしたが
今回は女性に担当していただきたいと思っていたところ

友人から「もう絶対おススメ‼‼‼‼」
「松森さんの感性とも合うと思う!」と
昨年6月にご紹介いただいたのが、JINO株式会社の郷司智子さん。

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爽やかでさらりとした瑞々しさを感じる美しさと、丁寧な言葉遣い。
私が補聴器に対して求めることを丁寧にきいてくれて
それにあった解決策としていくつかの補聴器が提案され
一台につき一か月ほど、数種類を試用することになりました。

候補となる補聴器が3台あれば三か月以上かかることになります。
そそそそんなに時間をかけてもいいのだろうかと不安になる私に


「焦らずに時間をかけて
自分の脳の中の記憶している音や声の情報と、
補聴器からの新しい情報に違和感をなくし
納得したものに出会うまでお付き合いします」

とひとこと。

郷司さんの慈愛に満ちた一言に、すべてお任せしようと思いました。


耳とはいえ、自分でも見ることができない穴の奥深くまで
見られるのはなんだか恥ずかしい。
見られるだけでなく、型取りの為に柔らかいのを注入したり出したり
つけたりはずしたりと耳周りを触られるのも
やっぱり同性だとほっとします。
産婦人科で女性の医師に診てもらえたときみたい。

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何年かぶりの聴力検査も面白かった。
もともとずっと耳鳴りがあるので、正確に計測できているか不明ですが
それでも125Hzの低音は80㏈程度感じることができ
高音になるにつれて下がり2000~8000Hzでは110㏈以上のスケールアウトとなっていることがわかりました。

 

さて、私が補聴器に望むことは普段の会話よりも
「映画館や舞台、ライブなどでの音の輪郭を感じて
臨場感をもっと楽しみたい」。


繰り返しますが私は聞こえないので
聞こえない耳で「どこまで楽しめるようになるのか」ある意味チャレンジです。

数台試しておどろいたのは、
これまでは自宅のテレビの音は全く聞こえないものだったのが
新しい補聴器はテレビの音を感じ取ることができるのです。
そんな当たり前のことにびっくり。
更にリモコンでは、静かな場所、会話、音楽、うるさい場所など
場面に合わせて聞き取りやすいように変えられるのは、今は当たり前なんだとか。
リモートフィッティングなどもできる。

郷司さんが言う
「補聴器によってその人に合う好みの音質もある」
とはどういうことか、最初は分からなかったのですが
数台比較し、なるほど、肌に合う合わないと同様
耳に合う合わない、ストレスを感じない音質というのがあるのだなぁと
分かったのです。

聞こえる聞こえない、ということよりも
感覚として合う合わないレベルのものです。
最終的に決まったのは、四台目10月の中旬に発売された新商品でした。
言葉の抑揚を明確にしメリハリを伝えてくれるので
話の内容まで聞き取れなくても、「話をしている」ことが分かるのが面白い。

アプリを使うと、スマホで「日常用」「音楽」「テレビ」「騒音下」など
プログラム切り替えができるのも便利。


映画やテレビなどの音楽の輪郭が、なんとなくではありますが
これまで以上には分かるのもうれしい。
カメラに例えれば、ピントが合わず被写体が分からない写真のようですが
それでも、ぼんやりとでも輪郭がわかると「存在」を認識できます。


さらに、自分の声も感じ取りやすくなるので
「自分が声を出している」というフィードバックがしやすく
講演会などで話すときは補聴器をつけているときのほうがスムーズに話せます。


この最後の出会いまでに半年以上かかりましたが
いつも笑顔で接し、納得がいくものと出会うまでのプロセスを一緒に寄り添ってくれた郷司さんに感謝です。

ご自身のことを補聴器マニアと称して書かれているブログで
「デバイスしての補聴器の魅力と存在価値」について
「マイクもレシーバーの部品たちも携帯電話より高性能でデバイスとしての完成度が高い」
などと述べられていて興味深く読みました。
https://jino33.hatenablog.com/archive/2020/07/10

バイスとしての補聴器は、エンタメを楽しむことにもつながる。
10年ぶりの補聴器の新調は「身体感覚の拡張」に!

JINO株式会社
https://jino33.com/about_jino/

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店内の本棚には耳に関する書籍が沢山。拙著もあり嬉しい!