私たちのヒーロー


「五歳の小春、人が大好きで会ってから五分ほど大はしゃぎしますから覚悟して!」
事前に聞いていましたが、想像を超える熱烈大歓迎。
すんごい勢いで飛びつかれ、舐められ、あっという間に押し倒されました。
「ゴールデンドゥードル」といって
ゴールデンレトリーバーとスタンダードプードルの初代ミックス、
オーストラリア発祥の新種のワンちゃんだとか。可愛い♡


春ちゃんからの洗礼を受けた後は気持ちの良いテラス席で乾杯。
私たちの恩師、大沼直紀先生のご自宅です。
奥様お手製のお料理が並び、私たちのためにあけてくれたワインは芳醇で美味。
大学時代からの友人とともになんて幸せな時間。


大学時代に大沼先生から学んだ「聴覚障害学」は、
聴覚障害を医学的、生理的な視点からとらえ
聴覚障害の教育や歴史、言語、補聴器の扱いを学びました。
聴覚を失ったばかりの私にとって、
耳の構造や音の伝達の仕組みなどを知ることは
「自分が失った音」を客観的にとらえ
「障害と向き合うこと」につながりました。


聴力検査を受ける機械「オージオメーター」の扱いを学び
自分で自分の聴力検査をしたとき、私の世界は大きく変わりました。
なぜならば
本当の自分の聞こえなさと向き合うことができたからです。


それまで私にとって「聞こえないのは悪いこと」で
「周りには隠しておきたいこと」でした。
だから、聞こえにくくなって以来、小学校、中学校、高校と毎年聴力検査をするときにはユウウツ。
「早くボタンを押さなくちゃ!」
「でも聞こえないのにすぐ押したらウソになる、五秒待ってから押そう。」
などとボタンを持つ右手は汗びっしょり。
もはや、聴力なんて関係なく、
ただ聞こえないことを悟られないようにやり過ごすのに必死の聴力検査。


しかし「聴覚障害学」の中では、自分の聴力検査は自分でします。
自分のことは自分が良く分かるからです。
自分の耳が反応するところまで、
自分の手で少しずつボリュームを上げ下げして徹底的に調べることができるのです。


印刷されたオージオグラム(聴力検査の結果)を見て
「私はこんなに聞こえなかったんだ」と納得しました。
「これが私の聴力であり、自分そのものなんだ」と。
聴覚障害の受容や、聞こえない自分を作り上げていくことができる授業、
私にとっては大きな価値ある授業だったのです。
その後、大沼先生は筑波技術大学学長となり
東京大学先端科学技術研究センター客員教授を経て
現在は、同センターで福島智研究室アドバイザーをされたり
聞こえの教育相談クリニックなども。
http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/research/people/staff-ohnuma_naoki_ja.html



大沼先生は、初めてお会いした時から今も変わらず私たちのヒーロー。
笑いあり涙ありで、話題は尽きず、
いつのまにか隣家のワンちゃんも一緒に遊んでいたり。


帰りの駅のホームで
「先生という存在って「希望」だね〜」などと余韻を楽しんでいたら、
乗る予定の電車を見送ってしまいました。
目の前に電車が来てるのに何で気付かないの?!とじたばたする私たちは卒業して20年。