二転三転晩御飯

某大型商業施設の内覧会があった。招待を受けると、その日だけ利用できるお買い物券2000円分もついている。ラッキーとばかりに受付を済ませたが、どこへ行っても人人人。買い物しようにもどのお店もレジでは行列だ。
お買い物はあきらめて、晩御飯でお買い物券を使うことにした。

何故だか、私と息子とK君三人という不思議なメンバーでの晩御飯。

「ステーキが食べたい」と言って聞かない男児二人。レストラン街へ行くと案の定どのお店も混雑しており、ステーキのあるお店だけがすいていた。
お買い物券もあるし、たまにはいいか!

食べ盛りの二人は、ステーキセット。
私は和風ハンバーグにビールのセット。
注文の間違いがないようにと、メモに書いて見せた。
聞こえないと、注文の確認がうまくいかずに違うものが出てきたりという失敗が多くあるし。

ゴハンが出てくる間、K君はずっと喋りっぱなし。
私に話しかけるときは、必ず顔の前で手をふって注目させてから話し始めてくれるのだが、これがとっても自然にできる子なので感心する。
手話はできないが、口の形をはっきりとあけ、私が分からないときにはすかさず息子の手話通訳が入る。
なんというか、この不思議な三人の呼吸が絶妙。

「どうして耳が聞こえなくなったの?」
「いつから聞こえなくなったの?」
「学校の先生はみんな手話ができたの?」
ストレートな質問が次々と出てくる。
一つ一つ丁寧に答えながら、今夜はチョッとマジメで良い話ができそう!そんな感触があったのだが、いかんせんこのコンビだ。
「病気や事故で障害を持つ人もいれば、私みたいに突然聞こえなくなる人もいるんだよ」
「お父さんのお友達は高いところから落ちて車椅子になった」
「ボクもこの間、噴水の壁から落ちた」
「ボクも、どこそこの壁から落ちて頭打った」
「頭打ってばかりいるとバカになっちゃうよ」
「いいんだよ、バカだから学校に行くんだもん」
「そうだね、学校に行ってお利口になるんだもんね。」
「一年生で、これくらいお利口になったけど、二年生と三年生になっても変わらない。」
「六年生まであと三年間あるから…」


って、チョッと良い話をしていたはずなのに思い切り脱線。
その上、注文したものがなかなかこない。
スタッフに確認し、ほどなくして出てきたのは
ステーキセットが一つと、私のハンバーグが一つ。
あれ?ステーキセットが一つ足りない。
その上、セットについているサラダも出てこない。
スタッフの確認ミスだったようで、また待つことになってしまった。


二人の脱線おしゃべりはなかなかとまらなかったが、明日は学校。早く帰らねばと無事に食事を済ませてお会計。
そこへ店長らしき男性が出てきて、なにやら話しかけてきた。
「聞こえないので筆談で…」とお願いすると、メモを持って来てくれたのだが、そこには一言


「お会計はいただきません」


とだけある。
一瞬、???と思ったが、おそらく、注文ミスが続いたことで謝罪をしてくださったのだと思う。
筆談では、用件が分かればいいとはいえ、もうちょっと丁寧に説明はできなかったのだろうか?
心を込めた対応はできなかったのだろうか?

「ラッキ〜〜〜♪」と喜ぶ男児二人のそばで、なんとなく後味が悪かったなぁ。

こちらもお礼を述べて、お店を後にし、私は困ってしまった。
そう、お買い物券2000円分!
使おうと思っていたのに、使えなかった。
時間は閉店間近の19時57分!!
今日しか使えないお買い物券、もったいない!とばかりにとりあえず近くにあったお店に飛び込み、キレイな色のパーカーが目に入った。
値札を見ると、3,400円。これならオッケー!とばかりにレジに持っていった。
レジで表示されたのは

「8,400円」

あれ??3,400円じゃなかったの??
あろうことか、8と3を見間違えた。ビール一杯しか飲んでないのに!
でももう閉店時間!ええい、ままよ。

せっかく、食事代がただになったというのに結局それ以上の散財。


ほんの二時間程度でいろんなことが二転三転、濃厚な夜だった。