130年間手話を禁じてきたフランスの映画「ヴァンサンへの手紙」

130年もの間手話による教育を禁止してきたフランスの歴史
言語としての手話を認めてまだ8年という事実に、まず衝撃を受ける「ヴァンサンへの手紙
ろう者を取り巻く環境は、フランスの方が進んでいると思っていたのだけれど。



しかしそこに映し出される言語としての手話は本当にうつくしくて。
手話や障害を美化することなく
「言語である手話」として沢山の登場人物たちから
手話となって紡ぎ出されるまでの「怒り」「悲しみ」「苦悩」「孤独」
そうした人の闇の部分もすべて映し出しているから「うつくしい」と思うのでしょうか。
映画の原題が「ろう者の視点であなたに寄り添う」。
監督の想いそのものです。



一方で
「芸術としての手話」のうつくしさもあますことなく伝えています。
聴者の世界では、声で表現する声楽やオペラは
音声を身体の中に響かせて発声することで、芸術として成立していますが
手話の世界でも、手話劇、手話ポエム、歌と手話のコーラスなど
手や指先、眉、顎、目、角度や繊細な目線の動きで表す豊かな表現は
聴者にとっての芸術とは違った世界観があることを教えてくれます。


そうした「うつくしさ」の根源には
レティシア監督がこの作品を作るきっかけとなった
「怒り」と「悔しさ」もあるのでしょう。
聞こえないことを否定され、差別され、そんな中で
「感情を閉じ込めてしまったろう者」たちが
レティシア監督との交流を通して語りはじめ
様々なメッセージが発せられていきます。


おりしも日本で、聴覚障害者の109人が強制不妊手術や中絶をさせられていたことが
全日本ろうあ連盟の全国調査で明らかになりました。
https://www.jfd.or.jp/2018/10/15/pid18319


1996年という最近まで続いていた優生保護法に基づく強制不妊手術です。
この課題について、障害者政策委員会の委員(〜2016年)だったときに学び
委員会でも何度か発言したものです。
http://d.hatena.ne.jp/karinmatasumori/20180625



映画の中では、フランスでも同様なことが当事者の手話によって語られる場面もあり
映画という大きなスクリーンで発することの意義を感じました。


バイリンガル校があるトゥールーズの子どもたちが
手話でいきいきと生活をする様子は見ていて本当に楽しくて。
世界中の子どもたちが、自分らしく生きることができる言語で
自由に将来を選択できる社会をつくっていかねばと。
世界中の子どもたちの笑顔のために。
聴者であるレティシア監督が、徹底してろう者の視点を貫き寄り添った世界、
そこからヴァンサンが望んだ世界が観えてくるのです。


最後に特筆すべきはこの作品は
ろう者である映画監督の牧原依里さんにによって買い付け、配給されたということ。
映画の仕事というと、撮影や制作、出演や、字幕というイメージがありますが
作品と観客をつなぐ仕事もあるというロールモデルを示す彼女の
仕事と生き方のセンスは何度お会いしても魅力的なのです。
そんな彼女とのトークショーは楽しくあっという間でした!

26日まで様々なゲストとのトークショーがあります。
ヴァンサンへの手紙、渋谷アップリンクにて上映中!
http://uplink.co.jp/vincent/