超方向音痴のひとり旅「犬島」

超方向音痴の私が1人で電車とバスと船を乗り継いで、岡山県の犬島へ。

犬島を教えてくれたのは、福武財団の内田真一さん。
「犬島精錬所美術館」は絶対に見たほうがいいからと。
精錬所…鉄や廃墟のような写真は
正直私はあまり惹かれなかったのですが
「一日でまわるのにぴったりな島」と「犬島」という
可愛らしさで決めました。
島までの船が一日一往復のみ、乗り遅れたらダメなやつ。
方向音痴の私にはかなり高いハードル。
しかも、ローカル電車は電光表示板がなく音声案内だけなので
停車するたびに窓から駅名を確認する
「絶対寝てはいけない聞こえないあるある」。

どうにか目的の駅で降りたら、次は港までのバス乗り場を探すミッション。
駅に人がいない…駅員さんも、駅前の交番ですらもだれもいない。
何かあったらどうするんだ?
レンタカーのお店に人の姿を見かけて教えてもらいバス停発見。
バスもそうだ「絶対寝てはいけない」ミッション。
約30分の山道、心地よい揺れと睡魔と必死で闘ったのに
降りるバス停は終点だった。

次は舟!
船乗り場までの道。
一緒に降りた人についていったら大成功。
どうにかこうにか犬島上陸!

私といえば、雨女雪女またの名を嵐を呼ぶ女と言われてるが、
この日は10月末なのに真夏の暑さ。
さすが「晴れの岡山」あっぱれ。

犬島製錬所美術館。

鉄の門を入ると、黒く焦げたレンガの世界に来たようだった。
「カラミ煉瓦」といって
銅を精錬する過程で発生する廃棄物を活用して作られたとか。

遠くに煙突が見える。
迷路のような構造で足元は悪く、
ハイヒールで彦根城登った私でもここは無理だろう。
ごついブーツとリュックで来てよかった。

美術館入り口を入り、一瞬で鳥肌が立ち硬直してしまった。
映画でしか見たことがないシーン。
真っ暗な長い通路がはるか先まで続き、
その先にやっと小さな出口のような光が見える。
私のほかにはだれもいない。
不思議と怖さはない。
光に向かって歩きはじめると、時々風が形をもったように耳元をかすめていく。
後ろを振り返ると、太陽の映像が赤々と映し出されている。
ゆっくり歩をすすめると、曲がり角に。
しかしそれは鏡で、空が映し出されている。
さらにその先も鏡が続き、何度
曲がっても
常に先には空が見えて、後ろには太陽が見え続けている不思議な体験。
写真が撮れないので、一体どういう作りになってるのか分からぬが、
そんなことより真っ暗な中に見える光はあの世かもしれない、
などと思いつ、内省するひとときに。
この通路は「イカロス・セル」と題されており
三島由紀夫の随筆「太陽と鉄」を思い出す。
空気が折れ曲がった通路を移動することで、
冷却されたり快適な温度に保つ仕組みらしい。
三島由紀夫をモチーフにし、建築家・三分一博志が手がけたとか。
想像以上にしびれた美術館。
日常と切り離し、一人で行って本当に良かった。

美術館を出ると、
今にも崩れそうな煙突やただっぴろい廃墟の敷地内に私ひとり。
異国のよう。

へびでも出そうだし、何ならラピュタのようなロボットでも出てきそう。
しかも真夏のような暑さ。

入り口には「一部危険個所があるので、見学は個人の責任で」と書いてあった。
この廃墟、絶対迷子になってはいけない。
だが敷地内の地図はなく、右も左もわからない。
とりあえず、道になっているような廃墟の奥を進んでいく。
グーグルマップを見て見たが、道がない。
人もいない。
私この廃墟から出られないかもしれない。

そんな思いがよぎったとき、
この美術館を勧めてくれた内田さんからメッセンジャーが届く。
「犬島精錬所の小道を抜けると海水浴場ですよ!」と。
救いの神!
この美術館の企画や建設に関わっているので
敷地内や島のことを把握しており
「そこの突き当たりを右に」
「海を左に見て直進」などと
遠隔アテンドをしてくださることに。
なんとありがたい。
アテンドに従いながら、
入り組んだ森の奥深くを抜け出て、海水浴場へ脱出成功。

通信状態が悪くヒヤヒヤしましたが、
まるで無人島脱出した気分。
あの複雑な通路や島の地形が全部頭に入ってるんだろうか。

海風を感じながら休憩していると
「そこから植物園へ行くのがオススメです!これから会議です」と
次のミッションを残して
遠隔アテンド内田さんとの通信は途切れた。
大丈夫かわたし。

次なるミッションは植物園。
案内板はなく、島のパンフレットの地図もよく分からず
うろうろしていると
草刈りをしていたおじさんたち発見。
久しぶりに見る生きてる人間。
人がいるって嬉しい!!
おじさんたちに近づき、聞こえないことを伝え、あっち?こっち?
え?この海に沿っていくの?砂浜を?と何度も確認すると
「危ないから案内させるよ」と小屋の奥から別のおじさんが出てきて
道案内をしてくださることに。ありがとうございます涙
いやはや、断崖絶壁の海岸沿いを歩いていくコース。
波が近過ぎて怖い!
おじさんいて良かった!

UDトークで「夏の間はカヤック停めて泳いだりしてる」ことや
「週に二回、草刈りに来ていること」
「どこから来たの?」などそんな会話をしていましたが
断崖絶壁ではつながらず。笑
途中、大宮エリー氏のアート「光と内省のフラワーベンチ」があり
おじさんがカメラマンとなり撮影をしてくれたり。

そこからジャングルのような小道に入り、植物園に辿り着きミッションクリアした気分。
おじさん、ありがとうございました!
こんな道、絶対私一人では抜けられなかった。

あちこちで助けられながらの珍道中。
植物園からは犬島「家プロジェクト」といって
「F邸」「S邸」「I邸」「A邸」「C邸」など、かつての民家の造りを
活かしたギャラリーをめぐることに。

半分ほど回ったところで、突然、
本当に突然としか言いようのない冷たい風が吹きすさび、
竹林の葉が風にのって縦横無尽に舞い上がり、真っ黒な雲で覆われて
大雨が降ってきたのです。

これもまた映画のよう。
さっきまでの真夏の太陽はどこへ?
文字通りの暴風雨。
やはり嵐を呼ぶ女なのか。
倉敷ではヒョウが降っているとか。

観光はあきらめて、港へ戻ることに。
日傘の骨は全部折れ、油断したら身体ごと飛ばされそうだ。
びしょ濡れになりながら、港のチケットセンターのカフェにたどり着く。
暴風雨でも船は出るそうだ、よかったー!

そうして帰りもまた「寝てはいけないミッション」を頑張り岡山市内へ。

改めて振り返ると、犬島での時間は異次元の世界にいたようでもあった。
日本とは思えない光景の数々、不思議な出会い、
おかしな天候、自然の中に現れる現代アート
美しい島やアートの背景には、島が抱えてきた負の歴史や問題がある。
アートを通してその世界に触れることができる。いつまでも考え続けることができる。
また行ってみたいと思う。
昨年は直島を訪れ、今年は長島と犬島。まだたくさんの島が浮かぶ。
ここまできたら、全島コンプリートか。
まだまだ続くか、超方向音痴のひとり旅。
犬島精錬所美術館 | アート・建築をみる | ベネッセアートサイト直島 (benesse-artsite.jp)