「関心領域」壁一枚隔てた日常と非日常

アウシュヴィッツで収容者を大量虐殺しているすぐ隣で
壁一枚隔てて平和に暮らす家族の日常を描いた作品。

これは「音」が重要な要素になっています。
聴こえる人によると「アカデミー賞音響賞を取るほどの嫌な音楽」なんだとか。
わたしの補聴器では音の輪郭がなんとなくわかる程度ですが、
冒頭で1分ほど続く漆黒の闇、故障かなと思うほど長いのです。
でもその間、なんとなく不穏な音が映画館中に広がっていました。
燃やす音や呻き声や銃声かもしれない。

スクリーンの中の一家はとても美しく楽しそう。
子どもは5人、お手伝いさんもいて、広大な庭には花が咲き乱れ、
野菜が育ち、プールもあってまるで楽園。
映画はこの幸せな家族を徹底的に見せ、壁の向こうを見せない。
収容所での惨劇は一切描かれないのです。
日常と非日常の対象があるはずなのに。

だからこそ、想像するんですね。
ちょっとした違和感……常に煙突から立ち上る煙、
庭の肥料にされている大量の灰、
においを気にして窓を閉めたり、
川で遊んでいたら人骨が流れてきたり。
子どものは誰のものともわからぬ金歯で遊んだり、
ひとつひとつの映像の背景を想像すると怖い。

でも目をそらせない。
無関心でいれば、それは存在しないことと同じになるから。
それは、この映画を超えて現代社会のあらゆる差別や偏見、
いじめ、ハラスメント、争い、分断などの課題に通じます。

ラストに出てくるのは、おそらく現在のアウシュヴィッツ博物館。
収容者の靴、鞄、衣類など悲惨さが残る展示と
淡々と掃除をするスタッフが静かに対比するシーンは、
誰かの豊かさの裏では、犠牲となる誰かがいることを静かに伝えてくれる。

それは私たちの日常の中の
障害のない人が優先される社会の中で、不利益を被る人がいる社会にもつながる。

作品の中では「生産性」という言葉が何度か出てきます。

「無関心」が差別や偏見を生み出すことを示唆しているこの作品、
戦争が終わらず、自分とは異なる人を排除し
分断が生まれる世界を生きる私たちに
スクリーンという壁一枚を隔てて、様々に問いかけてくるのです。

日本語バリアフリー字幕があると、聴こえない人にももっと届くはず。

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#関心領域