良いタクシー悪いタクシー

タクシーほど不思議な乗り物はない。
行き先を告げればそこまで連れて行ってくれる。
しかしタクシー乗り場では、好きなタクシーを選ぶという選択肢もなく、順番に来たタクシーに半強制的に乗り込まねばならない。

乗客への対応、サービス、目的地までの道の選び方、料金、あらゆる場面において
バスや鉄道などの公共交通機関が一定しているのに対して、タクシーはみな違う。
乗ったら思い切り運転が荒かったり、タバコくさかったりすることもあるが
良くも悪くも色んな意味で「乗ったら最後」感がある。



聞こえない私は、行き先を明確に伝えたいため、あらかじめメモしたり、ケータイに打ち込んで見せたりする。
そして「自分が聞こえない」ことを伝え「何かあれば筆談で」お願いをしておく。
その時に「まかしとけ!」といった頼もしそうなリアクションのドライバーだと非常に安心して身を任せることができるが、ぶっきらぼう風のドライバーもいたり、ホワイトボードを車内に準備しているタクシーまでまさに千差万別。



先日たまたま止まった個人タクシーに乗り込んだ。
南○○まで行きたいと、目的地と聞こえないことを伝えるメモを見せた。
しばらく走ると、何か話しかけてきているようだ。
再度「聞こえないので筆談で…」とお願いをすると、あからさまに面倒そうな顔をしつつ
「西○○?」ときた。
先ほどのメモをもう一度見せて「南○○です」という。
何やらぶつぶつと一人で話している様子を見て不安に思い、
「南○○まで大丈夫ですか?」と再々確認。
とりあえずうなづいてくれたので、おとなしく座っていた。


ほどなくして、到着したのは「西○○」。
「南○○でお願いしたのですが…」
ごにょごにょと言いながら、何を言われているのやらさっぱりわからず。
だから聞こえないので、とメモとペンを差し出す。
にもかかわらず、書こうともせずにとにかくここまでだ。みたいな雰囲気。
いや、私は最初に何度も「南○○」だと念を押して確認をし、
聞こえないことも伝えてある。
ここでおろされても困る。西と南では全然違うのだ。
何が言いたいのか分からず、禅問答のようなやりとりに本当に困ってしまった。
挙句には料金を半額くらいにまで下げてきて、降りろという。
値段の問題じゃないし、久々に腹立たしくもなり
「こんな最低なタクシーは初めてです!」と精一杯の抗議をしてタクシーを降りた。
何が悪かったのかさっぱりわからず、この気持ちの持って行き場もなく、半べそ状態で乗り換えたタクシーのドライバーは
「そういう時はタクシーのナンバーと名前を控えておくといいよ」と教えてくれた。
それにしても、あんなにも他人から目の前で嫌われるという経験もなかなかない。
ある意味貴重な機会だったともいえる。


そんなこんなで、しばらくタクシー不信に陥っていたが
仕事のために乗ったタクシーに救われた。
信号で止まるとおもむろに「厳しい残暑がつづくザンショ!」と走り書きサービス。
笑っていると、「暑い日はタクシー乗って正解ザンショ!」と追加筆談サービス。
到着したら更に追加の筆談サービス「残暑に気を付けるザンショよ〜!」
ダジャレのザンショバージョンまさかの三連発にノックアウト。