知床世界遺産と世界遺産並みの耳

八月最後の三日間、北海道で遅めの夏休みを。
釧路空港〜阿寒湖〜摩周湖知床半島で一泊。夜は知床ナイトサファリ。
2日目は早朝の知床クルーズ〜知床八景散策〜網走刑務所〜層雲峡にて一泊。
旭山動物園〜美瑛〜富良野〜千歳空港、という三日間。

昨年の夏は、炎天下の京都を自転車で世界遺産めぐりだったが
あの暑さはもう二度とごめんだと
今年は家族で、暑を逃れて知床世界遺産クルーズ。
今回の目玉だ。
船でしか見ることのできない絶壁、奇岩、滝など圧倒的なスケールで迫ってくる光景。
湾にはヒグマが普通にいるし、
反対側には抜けるような青空と果てしない海原。
身体の中を抜けていくのは
潮の香りや、海の香りといった単純なものではなく、まさに地球の香り。


これを体験できただけで十分価値ある旅だった。


私は聞こえない世界にいるが、実は完全に静かな世界というのを体験したことがない。
聴力の低下とともに聞こえてきた雑音。
いわゆる「耳鳴り」が、24時間絶え間なく鳴っているからだ。
キーンとした耳づまりから、次第に高音の耳鳴りに変化し、時には轟音にもなる。
気が狂わんばかりの奇音怪音の嵐に、中学、高校生のころには日常生活に支障をきたすほどだった。
次第に私は耳鳴りを音楽のように変化させ、コントロールする方法を見つけていくのだが。

<2011-08-03私は耳鳴りをコントロールする>
http://d.hatena.ne.jp/karinmatasumori/20110803


耳の中にオーケストラがいるのだ。
聴力と引き換えに得た唯一の音楽が耳鳴り。
その日の体調、気分などによって指揮者が交代するのか、音質や音量、音のタイプがころころ変わる。
まさに今は、「ガギグゲゴ、ザジズゼゾ系」の濁音型でのエンドレス演奏。
あまり良い調子ではないようだ。
指揮者の顔が見てみたい。
あわただしい日が続いたり、ストレスを感じたりすると、へっぽこ楽団がわざとやっても出来ないような想像を絶する最悪な楽曲が奏でられる。

しかし、北海道の大自然の中では、史上最大のスケールで史上最高のオーケストラが追従してくれていた。
私が望む通りの演奏を、その時の気分に合わせた歌を、次から次へと奏で
私の耳の中はまるで、ウィーン国立歌劇場
へっぽこ楽団が、こんなでっかいスケールにもなるとは!
恐るべし私の耳。
いったい何人の指揮者がいるのか。
まったくもって、これがほかの人には聞こえないのが残念。
9月も半ばとなり、再びへっぽこ楽団に成り下がりつつあるが、私の耳の可能性が大きく広がったのは
北海道に行った一番の収穫だったかもしれない。
へっぽこへっぽこと繰り返していたら、次第に「ポコポコ系」の耳鳴りに。
これはこれで可愛いものだが、理解してくれる人は一体どれくらいいるのだろう…
改めて読み返し、首をかしげてしまうが、
世界遺産並みの耳なのだと思うことにする。