うっかり三連発

ある朝、缶のトマトジュースをプシュッと開けて一口飲み、
テーブルに置いて新聞を取りに行った。
片手で新聞を広げながら、トマトジュースを飲もうとついうっかり勢いよく振ってしまった。缶、開けてあるのに!
顔面に思い切りトマトジュースを浴びた。
テーブルはおろか、白木の床や白い壁、白い天井にまで放たれた真っ赤なトマトジュース。
それはまるで、スプラッター映画や時代劇の殺陣シーン直後のよう。
返り血を浴びたかのように呆然としつつ、
そんなときって何が起こったのか一瞬で判断できないもの。
トマトジュースが渇く前にと、慌てて天井から壁、床拭きに取り掛かった。
その後、洗面所に行って鏡に映った自分の顔をみてぎょっとした。
映画でよく見るような「大きな仕事」を終えた殺人犯のように、ちょっとにやりと笑ってみたりしたのち顔を洗った。




ある夜、仕事でぐったりと疲れていた私。
あまりにも眠かったため、
早々と寝ようと台所の片づけを終えて手を洗い、電気を消そうとしたその時。
ガツン!という衝撃と共に、夕方買ってきた米をうつしかえたばかりの米びつに
うっかりつまづいた。
勢い余って倒れる米びつ。
ざざざざざーっ……と、まるでスローモーションのようにあふれ出る米々。
米米米米米!
止めようもなく米だらけになった台所。
この光景を悪夢という言葉のほか、何といえようか。
眠いのに!!
あとは電気を消すだけだったのに!!
目の前に広がる米の海、この中に身を横たえたらどんなにか気持ちいいだろうと
ほおにじゃりじゃりする感触を一瞬想像した。
その後、米々を収容するのに、いったいどれくらいの時間がかかったのだろうか。
お米一粒一年かかるというけど、この米々を拾うのに10年かかるんじゃないかとうなされつつ
ひたすら米粒拾って夢うつつ。




ある洗濯日和の朝いつものように、洗濯機を回した。
洗濯が終わり、洗濯機のふたを開ける。


……………!!!!!


だ、だれだ!?
綺麗になったはずの洗濯物は、細かな白い紙屑でいっぱいだ。
ティッシュかメモか。
おそるおそる、洗濯物を取り出すと、生徒手帳のカバーが出てきた。
犯人は息子だ。
衣替えで夏服にかわると、生徒手帳はワイシャツのポケット。
そのまま洗濯機に入れないようにと、先日注意したばかりなのに…。
徒手帳の手帳部分は芯を残してすべて紙屑と化したが、ビニールのカバーに覆われた証明書の部分と、そこに挟まれた「一か月分の食券」のみ無事だった。
まだ六月に入ったばかり、食券は今月の息子の命綱。
食いっぱぐれないようにと洗濯物もそこそこにピンセットを取り出し、
重なってくっついた食券を一枚一枚引っぺがしてテーブルに並べる作業に没頭する母。
それはまるでサスペンス映画の鑑識のよう。
予想外の集中力を発揮してくたびれた。ふぅー。
その後、洗濯物を何度もバフバフとやり(涙)、たまった紙屑をかき集めて山を作り、証拠写真撮影。
帰宅した息子に見せる。
「わざわざ写真撮らなくても…」
撮らなきゃ私がどんだけ大変だったか分かんないでしょ!


その夜、一連のことを母にメールしたら即返信が来た。
「カリンも同じことやってたよ。一年に三回も再発行して先生に怒られたでしょ!」

う……。