立教大学での講義

「聞こえない人が話せるなんて!」
「聞こえない人はみんな手話ができると思っていた」
「手話って世界共通だと思っていた」
「聞こえないのに笑顔でいられるなんて!」

私の講義を受けた学生の感想には、こんな素朴な疑問や感想が毎年多くある。
とても素直な感想なのだが、それだけ「こうであろう障害者像」という固定観念があるということだ。
これは学生が悪いのではない。
ただ、これまで障害のある人に接する機会がなかったというだけのこと。
小中学校や高校で障害者理解の授業や、バリアフリーユニバーサルデザインということを学ぶ機会があっても実際に当事者に接する機会はほとんどないのだから、仕方のないこと。
基本的な知識を学ぶことは、とてもよいことだが、大事なのはそこに心が伴うこと。
そのためには、実体験を通して学ぶことが何よりも大事なのだ。

今日は立教大学で講義をしてきた。
「心のバリアフリーを考える」という講義では、毎週多様な講師をゲストとして呼んでいる。私もその中の一人なので、聞こえない立場から「聞こえない世界を知る」というテーマで講義をした。
コミュニケーションや、普段の生活や工夫、聴覚障害概要、東京ディズニーランドの取り組み紹介から、育児まで、いろんな話をパワーポイントを使って行う。
学生数は320人程度。一年生から四年生までかなりの人数であるが感じ方は人それぞれ。
講義後に、レポートを書いて提出してもらう。
今年はどんな感想があるのかと、毎回これを読むのが楽しみなのだ。

何しろ300枚以上だから、まだ全部には目を通していないが一番上にあったレポートにはこんなことが書かれていた。
「聞こえなくなったことをプラスの方向に持っていき、むしろそれを武器に楽しんで生活している様子が印象的。自分も不満や文句ばかり垂れていないで、どうしたらよくなるのかを考えて行動したいと思う。」
「福祉というのは”〜してあげる”という一方的なものでは成り立たない。障害のある方からは、自分にない考え方や気づきを得ることができるし、相互に影響しあい、支えあって社会をよりよくしていくことが本当の福祉ではないか。」

うんうん。
今年も良い感触。
聞こえないという実体験をリアルに伝える。
これが、聞こえなくなった私だからできることだ。
聞こえる人が、聞こえないことについて話すよりも当事者から話すほうがずっとインパクトも説得力もある。

講義の受け止め方は人それぞれ異なるが、一つでも心に留まるものがあればいいと思う。いつかきっとそれが実体験に活かせるときがあるから。