面会制限、一瞬顔を見られるだけでもちがう

父の長期入院、コロナ禍で面会禁止という状況で
なんとかしてつながりたい!と思いついたのが
「ケイコとイサムの交換日記」と称した家族全員での交換日記。
家族からの励ましやケーコネタと、溢れる父の想いや日々の体調観察をやり取りしつつ
「ちょっとでも顔を見たい」そんな思いは日に日に膨らみます。
そこで繰り広げられた「ちょっとでも面会作戦」
病院関係者からは叱られるかもしれぬ…。
決して良いことではないのですが、切実な思いが生きる気力にもつながります。
どうかご看過を…。

<作戦A>着替えとタオルを届け、看護師さんから使用済みの洗濯物を受けとったら
エレベーターホールで待つ。トイレに行くふりをした父が来る。

日々看護師さんの動きやリズムを観察し把握していた父(さすが)
看護師さんに見つからない時間帯を指定してきて、なんと大成功!
エレベーターホールにふらふらと現れた父に
思わず「お父さん!!」と大声を出しそうになる私たち。
いたずらっ子のようなニヤニヤ顔で「しーーー」っと人差し指を口に。
ほんの一瞬のハグだったけれど、それでも嬉しい。
とても嬉しかった。

ところが!
翌朝父からの電話で「面会作戦バレたー!」としょんぼり。
交換日記にも
「オーバレちゃったぞ 叱られた
面会ダメ――――ッて誰が見てたんだろねー…
昨日はアリガトー
頭の中ボーっとしてて目はうつろで
余りよく見えなかったけれど
うれしかーーー!」と。

笑いながら「じゃあ次を考えようね!」と返すケーコ。
ここで諦めないのが最強ファミリーと言われるゆえんか。

<作戦B>
着替えを届け、看護師さんが父の部屋から洗濯物をこちらに
もってきてくれる時、看護師さんの後ろからこっそりついてくる。

翌日作戦決行。
朝の電話で「今日は午後いくよ。作戦Bだからね!」と確認し合う父と母。
いつものように新しいタオルと着替えをもって看護師さんにわたし、
その場で看護師さんが父の病室に向かう。

ほどなくすると、洗濯物をもった看護師さんが廊下の奥からこちらに向かってきた。
そのあとから距離をとった父がそろりそろりと登場。
看護師さんが足を止めると、父も足をとめ(たぶん息も止めてる)
看護師さんと一定の距離を保ちながら抜き足差し足忍び足。
ストーカーか!変質者か!心の中で突っ込みつつ
喜びを隠し切れない私はついうっかり両手を挙げて手を振ってしまった。
看護師さんと目が合い、ヤバい!とばかりに両手を頭にあてて
髪の毛を結ぶふりをする。
隣で笑いを堪える母ケーコ。
看護師さんにお礼を「今日の様子はどうでしたか?」などと会話中
看護師さんのずっと向こうで、満面の笑顔で手を振ってくる父。
作戦B大成功。
かなり距離はあるけれど、顔が見られるだけでもこんなにも嬉しく安心する

手を振るだけでなく
『がんばれ!』
『ご飯食べた?』
などジェスチャーでの会話をするときも。

『運転免許取ったよ!』と
免許証を見せて運転するジェスチャーで伝える私。
父も拍手しながら自分を指差し、運転のジェスチャー
『俺をのせて運転しろ』といった感じ。
OKサインを出し胸を叩きながら『まかせて!』
最後には『ありがとう』の手話で別れる。
100メートル以上は離れているし、声も出せない。
でもジェスチャーなら通じる、知っている手話は通じる。
ニコニコと笑顔で手を振るだけでも、わたしたちは通じ合うことができるのですね。

面会制限があるなかで、
決して堂々と語れることではないけれど
「顔が見られる」ただそれだけのことが本当に尊いと思えます。

9月末に退院後も、数回入退院を繰り返した父。
「すべてが奇跡だし、何でもない日常が一番の幸せ」だと。
そして「病院で過ごすのはもう絶対にいやだ」とも。
それほどまでに、面会制限される入院は大きなストレスだったようです。

そんな思いをしている人はきっと多いはず。
入院したら家族と会えないことが前提なので
予定していた入院をためらうケースが増加していると聞きます。
受診や入院を迷っているうちに症状が悪化する人もいるとか。

12月初めにも入退院したゾンビのような父
「正月は群馬の実家でみんなと過ごしたい」と繰り返します。
父の願いは私達家族の願いでもあり、それをかなえたいと準備していましたが
やむを得ず入院になったと母から連絡があり。

「入院断固拒否」の姿勢でパジャマに着替えるのも拒否し
「帰る!」と正月病院から脱走しそうな勢いだと
先生もわらうほどだったようです。

最強ファミリーの次なる作戦は「正月父帰宅作戦」(そのまんまか)
市場で注文した「身欠きフグ」
今年も父にさばいてもらわねば!

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